時計仕掛けの猟犬 −発端− −カスカさん 時計仕掛けの猟犬 −発端− 予約したホテルを目指し、小川に沿って進む。早朝というせいもあってか人影は 疎らだった。時折吹き付ける突風が体を冷やす。突如として響いたその声は、そ んな静かな朝の空気を破壊した。 「ラマセロ!!」 最初は誰かがラマセロという名前の人物を呼んだものと思ったがどうやら違うら しい。振り返ると色黒の顔に銀縁のメガネを掛けた男が俺に話しかけてきた。 「クレテロ ラ ポルチェ ガラタカタ ロマ!」 何を言っているのかさっぱりわからない。 「あーっと Do you speak English?」 「ボンゴ ロ ルラ シルキ?」 案の定、英語の返事は返ってこない。仕方がないので俺は首を横に振る。 するとその男は顔を紅潮させて怒鳴り始めた。 こうなるとどうしようもない。 「ウィリー!逃げるぞ!!」駆け出しながら愛犬に声をかける。 が、返事はなかった。あたりをを見回すとそこにはウィリーの姿もなければ、さ っきの色黒の男の姿もない。 「くそっ!迂闊だった!!」 俺の念能力は世話をしている犬を操作できるというものだ。だから俺にとって犬 は武器であり、それ以上に大切なパートナーなのだ。 その能力で操作している時ならウィリーに何かあればすぐにわかるのだが、あい にく常に操作しているわけではない。 それでもいつもは自分の側にいる犬を盗られるなんていうヘマはしない。 久々の旅行に少々浮かれすぎていたようだ。 「こんなことならもう二、三匹つれてきとくんだったな。」 と、後悔しても遅い。だがおそらく奴らはこの近辺で観光客をカモにしているの だろう。 だとしたら取り返す自信はあった。 こう見えて俺はそこそこ腕が立つ。 カスカ |