ネタバレ!(転生編) −ヒラガ・ゲン9さん ネタバレ!(転生編) 十分ほどが過ぎた。 "あっ、来たわよ、教来石さん。" 奥さんの声に、ムサシ、いやトガシ…冨樫義博が振り返る。僕は二人の向く方向に目をやった。右手を軽くあげながら近づいてくる。教来石宗春の登場だ。さあ、どんな顔をしているのか。いや、待てよ、男だ。女じゃない。期待してたのに。中年のでっぷりとした。これが教来石宗春なのか。 "編集長じきじきとは、驚きですね。" "いや、偶然だったよ。大阪に来ていたものだから。" えっ、編集長。教来石。どういうことだ。ハン謎の編集長という意味か。いやそうじゃない。そうだ。思い出した、この男を。あの時だ。ジャンプフェスタだった。集英社のVIPがぞろぞろとブースにやってきたとき、意味不明のコスプレ姿だった男。コスプレになっていないコスプレ。ただのヒゲをはやしたサラリーマン姿の、本人はボーボボのつもりだったあの男。名前は何と言ったか。そうだ、ジャンプ編集長! "大久留米さんって、ほんとに編集長タイプじゃないですね。" 奥さんが言った。頭をかきながら大久留米は言う。 "ボクは教来石宗春の時がラクだよ。一般人感覚で意見が言えるしね。" "ネタバレの流出、防いでもらっていますし。助かります。主人に代わってお礼を申しますわ。" "ボクのほうこそ助かるよ。売上に関わるからね。" "でもカイトの時は、ばれた方が売り上げ、あがったんじゃないですか。" "インパクトのある内容だとそうも言えるけどね。普通は違うよ。" 教来石宗春はジャンプ編集長・大久留米と二役だった!"ボク"の口癖はこの男のものだったんだ。 すごい秘密を知ってしまったことになる。いいのだろうか。こんなこと。 "ボクも新しい能力を覚えたんだ。" 子供のように笑いながら大久留米、いや教来石は言った。 "へえ、どんな能力なんですかぁ" 奥さんはひょうひょうとしている。 "操作系の能力でね。リ…" そう言いかけて僕のほうを見た。じっと視線をそらさない。見つかった。話を聞いていたのを。やばい。 隣の冨樫に耳打ちをした。掌を返して親指で僕を指している。やばい。 ヤブァァアアアイイイイイ! 立ち上がろうとして、腕をつかまれた。 "失礼ですが" 穏やかな教来石宗春の表情がかえって恐怖だ。 "わたしどもの話を、もしかしてお聞きになっていらっしゃったようですね。" 背筋に悪寒が走った。拷問される。操作される。 だがつかまれた腕が動かない。どうしようもない。僕は元の席に座らされた。三人の目が、異様に光っている。緋の目。まさか。照明の加減だ。だが恐怖には変わりない。どうなるんだ。どうされるんだ。イルミのあのビスのようなものを打ち込まれるのか。バンジーガムで、鉄球でもぶつけられるのか。いやそれより、謎の操作系能力者、教来石宗春が怖い。 その状態で奇跡が起きた。でも起きないほうがよかったかもしれない。不意に僕は壁の手前に、悪魔の姿を見たのだった。 あくむぁぁあ! 僕の驚きをよそに、悪魔は落ち着き払っていた。 "お前、おれさまが見えるのか。" 僕はうなずくだけだった。 "見えたほうびにすごい力をやろう。" すごい?いったいどんな力。 "それより誰なんだ、お前は。" 僕はやっと声が出せた。周囲が止まって見えた。 "おれさまはクリュー。" "どんな字を書くんだ。" "九つの龍。いやそんなことはどうでもいい。おれさまが与えてやるのは、悪魔の自動書記(デビルズ・レター)だ。どうだ、いいだろう。思ったことをいつでも文字で他人に伝えることができる。クックックッ。助けを呼ぶことだってできるぞ。ただし条件があるがな。クックックッ。" 悪魔の…自動書記…悪魔の…いったいどんな条件なんだ… "簡単さ。おれさまにお前の心を売ればいい。クックックッ。" 心を…心を売るなんて… つづく ヒラガ・ゲン9 |